寺子屋トーク第57回>諏訪晃一さんのレポート

 コモンズフェスタ2009/2010「U35の実力」、モニターレポートシリーズ、「寺子屋トーク」について、2人目となる諏訪晃一さんに寄せて頂きました。(諏訪さんには当日、会場にてTwitterでの中継を担当いただき、以下のURLから内容を見ることができます。)


(第一部)
http://twilog.org/osakakochin1/asc#100117
(第二部・第三部)
http://twilog.org/osakakochin2/asc#100117



1月17日の「寺子屋トーク」を拝聴して、私が感じたことをレポートさせていただきます。全体の内容の要約としては大塚郁子さんのモニターレポートが読みやすくまとまっていると思われますので、そちらをご参照いただければと思います。個人的な関心に端を発するレポートですが、「『自分』を掘り下げることで他人と繋がる」(西村, 2009, p.149)という言葉を手がかりに、今回の「寺子屋トーク」から得られた私なりの気づきを共有させていただきたいと思います。

私が大学に入学し、縁あって神戸の市民活動に関わり始めた頃は、「震災から5年の節目」という言葉が盛んに用いられていた時期でした。市民活動の関係者の間では、「震災で得たあの教訓を、いまの社会に活かそう」「震災の頃にはできていたあのことが、なぜ今の社会でもう一度実現できないのか」という熱い議論が交わされていました。自宅で地震の揺れを感じながらも、震災当時はほとんど何の活動もできなかった私は、自分が「遅れてやってきた世代」であることを痛感せざるを得ませんでした。

その後も、細く長く、神戸の市民活動に関わり続けている中で、今回登壇された4人の方々のご活躍ぶりは、幾度となく聞かされてきました。ですから、今回のモニターレポートをお引き受けした際も、少し気が重かったというのが正直なところです。これだけ活躍されている方々が一堂に会される機会が貴重であることは十分理解しつつも、そこで展開される議論を自分はどう受け止めればいいのか、という感覚がぬぐいきれなかったのです。

しかし、いい意味で、その予想は裏切られました。今回のシンポジウムを通して語られたことの核心は、当時の成功体験というよりは、むしろ、当時直面した「不全感」だったのではないか、というのが私なりの受け止めです。震災ボランティアの活動の現場を覆っていた万能感と高揚感の中だからこそ、かえってぬぐいがたく立ち現れる「不全感」が、今回の「寺子屋トーク」の通奏低音だったように私には感じられました。

例えば、「万能感」「コンバットハイ」「人間て何でもできる」という言葉が語られた一方で、震災当時の活動や、その後の活動の中に触れる中で、「ショックだった」「くやしかった」「力の限界も感じた」「こっぱずかしかった」「いまだに消化し切れていない」「自信を喪失させるものがあった」という声が聞かれました。

多少誇張した言い方をすれば、今回のパネリストの方々は、「何でもできるはずのこの現場に、(いま目の前にいる、この人との、この関係の中で)何もできない自分がいる」ということに、自覚的であった方々なのではないかと思います。そうでなければ、震災ボランティアとしての活動は、それ自体で完結してしまい、次の活動につながることはなかったのではないでしょうか。そして、(震災当時ほど強烈ではないにしても)その後の活動の中で感じた様々な「違和感」に敏感であったからこそ、震災から15年を経た今も「震災世代」という表現にリアリティを与えるような活動が可能になっているのではないでしょうか。

今回のコモンズフェスタの「プレトーク 自分をいかして生きる」のゲストとしてお越しになった西村佳哲さんの著書の中に、次のような一節があります。

(引用開始)
今になってふり返れば理路整然と説明できるこのような話も、当時の自分には失敗と模索の繰り返しでしかなかった、と宮田氏は語る。いずれにしても大事なのは、自分がしっくりこないことや疑問に思うことを素通りさせずに、つねに意識しつづけること。自分を大事にすること、自分らしさを模索し続けることだという。「やめずに続けていれば、その時にはまだわからなくても、五年とか一〇年とか経った時に形になるのです」
(西村, 2009, p.149)
(引用終わり)


「震災から5年目」の頃から10年を経た今、私は自分の仕事の中で、震災から15年目の節目を大学生として迎えた世代の人たちと向き合っています(その学生たちは震災15年目のこの日を神戸で過ごしていて、この会場には来られなかったのですが)。今となっては理路整然と語られがちな震災当時の「あの出来事」も、当時は「傷つき、気づく」プロセスだったに違いないということ、そしてそのことを意識し続けることが、少しずつ自分を変え、社会を変える可能性を開いていくこと。そんなことを少しずつ伝えていければと感じた、1月17日の寺子屋トークでした。

■引用元■ 西村佳哲 (2009)『自分の仕事をつくる』ちくま文庫


(諏訪晃一)

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